戸市で死産した赤ちゃんの遺体を自宅に遺棄した疑いで母親が逮捕され、相談を受けていた「赤ちゃんポスト」運営病院の院長が警察対応を強く批判しました。
この記事では、逮捕の是非と海外での類似対応を検証します。
「なぜ逮捕?」死産相談した母が拘束!

1月27日、神戸市北区に住む24歳の女性が、出産直後に死産した赤ちゃんの遺体を自宅クローゼットに遺棄したとして、死体遺棄の疑いで逮捕されました。
事件発覚のきっかけは、女性が出産翌日に熊本市の慈恵病院が運営する「赤ちゃんポスト」に連絡をしたことでした。
遺体は司法解剖の結果、生きて産まれたものと判明しています。
この逮捕に対し、慈恵病院の蓮田健院長が29日に神戸北警察署を訪れ、「逮捕は理不尽」「罪に問うべきなのか慎重に判断すべき」と抗議の意見書を提出しました。
院長によれば、女性は出産後に病院と相談し、助けを求めていたといいます。
警察は取材に対し「法と証拠に基づき適正に捜査している」と述べており、両者の主張は平行線をたどっています。
今回の最大の問題は、孤立した出産・死産という極めて繊細な状況に対し、刑事罰の適用が最適な対応なのかどうかという点です。
逮捕という強制執行がまずいのは、次のような理由からです。
- 逃亡や証拠隠滅の恐れがほぼない状況にもかかわらず逮捕に踏み切った疑問。相談履歴があり、逃走や隠滅の動機が弱いこと。
- 女性の心身の状態や支援ニーズを重視した対応が優先されるべき場面である可能性。精神的ショックや社会的孤立が犯罪性の核心に直結しているかは慎重な判断が求められます。
- 日本における「赤ちゃんポスト」や内密出産といった支援制度は法的根拠が未整備であり、支援と捜査の境界が曖昧です。
→ 相談相手に情報提供したことが、かえって刑事捜査のきっかけになった疑いもあります。
すなわち、「刑罰で抑止するべき事案なのか、社会的支援で対応すべき事案なのか」という根本的な線引きが、日本の制度では十分に整理されていないのが最大の問題です。
問われる日本の制度とは?

ここからは、海外での事例も取り上げながら解説していきます。
欧州の匿名出産・内密出産制度
フランスやドイツなどでは、妊娠や出産に関する支援制度が法制化されています。
・フランスでは、匿名出産が法的に認められており、母親が匿名で出産し子どもを引き渡すことが可能です。
これは旧来の「foundling wheel(赤ちゃん車)」の伝統を現代に引き継ぐものです。
・ドイツでは内密出産制度が法制化され、医療機関で匿名出産し、一定条件下で子どもを国家が保護する枠組みが整っています。
これらは子どもと母親双方の安全・福祉を重視する仕組みです。
こうした制度は、妊娠・出産の過程で支援を受けられる道を法的に保障し、犯罪として扱わずに社会的に支援することを基本に置いています。
日本でも内密出産や赤ちゃんポストの取り組みはありますが、法的な整備が不十分であり、支援と捜査が重なることで混乱が生じやすいという指摘があります。
Safe Haven Laws(米国)
米国の州法には「Safe Haven Laws(安全避難所法)」が存在し、母親が安全な場所(病院や消防署など)で赤ちゃんを合法的かつ匿名で引き渡すことができます。
これにより遺棄ではなく合法的な新生児の引き渡しが可能となり、刑事責任を問われることが避けられています。
海外の法制度を比較した表(日本との違い)
| 国・地域 | 制度名/仕組み | 母親の刑事責任 | 行政・医療の初動 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 🇯🇵 日本 | 明確な全国法なし(赤ちゃんポストは例外的運用) | 原則「死体遺棄罪」適用 | 警察主導になりやすい | 支援と捜査の線引きが不明確 |
| 🇫🇷 フランス | 匿名出産制度 | 原則問われない | 医療・福祉が主導 | 「処罰しない」前提 |
| 🇩🇪 ドイツ | 内密出産(法制化) | 刑事責任を免除 | 国が母子を保護 | 国家責任として対応 |
| 🇨🇭 スイス | 赤ちゃんポスト+福祉連携 | 原則問われない | 医療・福祉優先 | 母の匿名性を尊重 |
| 🇺🇸 米国 | Safe Haven Laws | 一定条件で免責 | 病院・消防署で保護 | 州法で明確に規定 |
ポイント解説
- 海外では「逮捕するかどうか」より「どう守るか」が先
- 母親の匿名性・精神的負荷を考慮し、刑事事件化を回避
- 「死産・新生児放棄=即犯罪」という発想は少数派
👉 日本は先進国の中で珍しく“刑事処分が初動”になりやすい国です。
支援・法改正の提言ポイント

「相談した人が不利にならない」法的担保を明文化
- 現状:相談 → 情報共有 → 捜査 → 逮捕
- 問題点:👉 助けを求めた行為がリスクになる
- 提言:一定条件下では刑事免責・任意聴取原則を明文化
支援と捜査を切り分ける「初動48時間ルール」
提言:死産・孤立出産は原則48時間は福祉主導
海外では👉 初動は「医療・福祉のみ」が原則
日本では👉 初動から警察が前面に出やすい
赤ちゃんポスト・内密出産の全国法制化
提言:全国共通ルール+匿名性の保障
現状:地域・病院ごとの“善意運用”
問題:法的裏付けがなく、警察判断に左右される
「死産」と「遺棄」を一律に扱わない制度設計
提言:医師・助産師の意見を優先する判断枠組み
現行法は👉 結果ベース(遺体があるか)で処罰
見落とされがちなのは👉 出産時の精神状態・社会的孤立
まとめ
今回の事例の核心は、刑事罰適用の妥当性よりも、そもそも孤立出産・死産に対する支援システムの不備と法体系の未整備にあります。
海外では匿名出産やSafe Haven Lawsなど、支援を優先する法的枠組みが整えられつつあり、同様の事件でも逮捕を選択しないケースが多いのが事実です。
日本も支援制度と法整備のバランスを再検討する局面にあります。
この事件が問うているのは、母親個人の責任ではありません。
助けを求めた行為が処罰につながる社会で、次に声を上げる人は現れるでしょうか。
日本はいま、「罰する国」か「守る国」かを選択する岐路に立っています。
お付き合いいただきありがとうございました。

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